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広島高等裁判所 平成3年(行コ)4号 判決

控訴人(原告) 片山艶子

被控訴人(被告) 広島県知事

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  本件を広島地方裁判所に差し戻す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

事案の概要は、原判決「第二 事案の概要」に摘示のとおりであるから、これを引用する。

第三争点に対する判断

一  当裁判所も、控訴人の本件訴えは訴えの利益を欠き、不適法であると判断するもので、争点に対する判断は、次に付加訂正するほかは、原判決「第三 争点に対する判断」に説示と同一であるから、これを引用する。

原判決二枚目裏二行目に「完全に宅地に変じた場合には」とあるのを「恒久的に宅地に変じた場合において、右農地の所有権移転及び宅地への変更が農地法五条の趣旨に反するものと認められないときには」と、同五行目に「乙四の4、5」とあるのを「乙二、四の4、5、五(ただし、甲一二及び乙二のうち控訴人作成部分についてはその存在。)」と、三枚目表一行目の「が認められる。」から同二行目の「認められるから」までを、「、本件土地については、昭和五〇年一月八日付で、河原考男を譲受人とし品川貞一の相続人である控訴人ほか二名を譲渡人とする、被控訴人に対する農地法五条の規定による所有権移転の許可申請書が提出され、同年三月六日に右許可がなされたこと、また同年四月三日に河原考男に対する所有権移転登記手続がなされ、さらに昭和五二年一二月八日に地目を宅地とする変更登記手続がなされていること、品川貞一と河原考男との間の本件土地の売買契約においては、公道から本件土地に至る通路として、品川貞一所有の土地のうち幅員三メートルの部分を通路として使用することができる旨の特約があったところ、控訴人は、右通路部分が三メートル幅しかないと、公道からみて本件土地よりも奥に位置する控訴人らの所有地を宅地として売却することが困難であるため、昭和五三年ころになって、河原考男に対し、四メートル幅の通路を確保すべく、本件土地のうち幅五〇センチメートルの部分を返還してくれるよう申し入れるなどして、同人との間で紛争を生じるに至ったものであることが認められる(なお、控訴人は、乙四の4、五のうち品川貞一の署名押印部分の成立を否認するのであるが、品川貞一名下の印影が同人の印章により顕出されたことについて当事者間に争いがないことのほか弁論の全趣旨によって、右書証の成立を認めることができる。)。右事実関係からすると、本件土地は、昭和五二年一〇月ころに恒久的に宅地に変じたものであり、かつ、本件土地の所有権移転及び宅地への変更について農地法五条の趣旨に反するものがあるとは認められないから」と改める。

二  よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。

(裁判官 新海順次 八丹義人 小西秀宣)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

一 本件訴えを却下する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が昭和五〇年三月六日付で別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)について指令呉農経第五七一号をもってなした農地法五条の規定による農地所有権移転許可処分(以下「本件許可処分」という。)を取り消す。

第二事案の概要

一 争いのない事実

1 被告は、本件土地について、譲渡人原告、同品川シゲ、同井村悦子、譲受人河原考男の計四名から昭和五〇年一月八日、農地法五条の規定による農地所有権移転許可処分の申請があったと認めて、昭和五〇年三月六日、本件許可処分をなした。

2 原告は、昭和六〇年一〇月九日、本件許可処分は違法であるから取り消されるべきである旨主張して右処分について農林水産大臣に審査請求をなしたところ、昭和六二年八月一二日、同大臣から右審査請求を却下するとの裁決書を受領した。

二 争点

原告に本件許可処分の取消を求める利益が存するか。

第三争点に対する判断

農地について所有権を移転する場合には、原則として、売買契約等の成立前に農地法所定の都道府県知事等の許可を受けなければならないが(農地法三条、五条)、農地である土地の売買契約後に右土地が完全に宅地に変じた場合には、右売買契約等について都道府県知事等の許可は不要に帰し、右売買契約等は右許可を経ることなく完全に効力を生ずるに至るものと解するのが相当である。

しかるに、本件証拠(甲一の1、二、一二、乙四の4、5、証人片山和明)によれば、河原考男は、原告の父品川貞一から、昭和四九年一一月一八日、本件土地を代金三五五万四二〇〇円で買い受けた(以下「本件売買契約」という。)こと、当時、本件土地の地目は田であり、その現況は休耕地であったところ、右売買契約においては、永久的に宅地として利用されることが当事者間で前提とされていたこと、河原考男は、本件売買契約後本件土地を土盛りし、昭和五二年一〇月頃本件土地上に木造瓦葺二階建居宅を新築し、爾来ここに居住していることが認められる。してみると、本件土地は右時点で完全に宅地に変じたものと認められるから、本件売買契約について都道府県知事の許可は不要に帰し、同契約は右許可を経ることなく完全に効力を生ずるに至ったというべきである。そうである以上、仮に本件許可処分を取り消しても、本件売買契約の効力に何ら影響を与えないから、本件許可処分の取消を求める訴えは訴えの利益を欠くものといわざるを得ない。したがって、本件訴えは不適法である。

別紙〈省略〉

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